痙性斜頸の治療


痙性斜頸について、主に神経内科での治療をジストニア名医の監修のもとで伝えます。


(赤字はリンクです。映画「ジストニア」の川畑監督にもご覧いただいています。これを見て、みんなで治りましょう ^^ )

 

痙性斜頸って治るの?

 

「けいせいしゃけい」と読みます。(正式名は頸部ジストニー、日本語では頸部ジストニア、痙性斜頸とは保険適用の関係で出来た言葉だそうです。) 特発性の中でも比較的に患者数が多いと聞く頸部の局所性ジストニア、痙性斜頸は、治ります。

自分でゴールを決めて、そこへ向かって治します。効果的な治療を根気よく続け、かつ、時には症状を忘れるぐらいに明るく振舞っていると、気づけば治っています。中には病院へ行き、入院させられ、薬でよく寝かされたら治った、なんて人も身近にいました。その人が痙性斜頸だったと分かったのは後になってからでした。普通はそんなにすぐには治りませんが、みんな納得出来るレベルにまで治っています。

以下は、ベストな治療を皆が受けれて治るための"痙性斜頸バイブル"となるよう、複数の名医から治療を通じてご指導頂いた治るコツを、やはり名医の監修のもとで書きました。

治った人の真似をしていれば、その途中ででも治ります。どうぞご覧ください。

まだ頸半棘筋や後頭直筋への治療もはじまっていない頃の古い動画ですですが、治療の様子は今と同じです。施術中には、先生が筋肉の説明してくれています。ボリュームを上げてご視聴ください。

医師:大澤美貴雄先生 https://medical.jiji.com/doctor/2323

撮影:ジストニア大樹の会 古川さん  http://jisutonia-taijyunokai.com/

患者:望月 https://amdd.jp/technology/voice/patient_group/784/


1.内科治療での心構え

 

内科治療では一般的であるボツリヌス療法では、自身の首の筋肉がわかると今回の治療はなぜ良かったのか、なぜ悪かったのか、さらに良くするには先生に何を伝えれば良いのか、が見えてきます。

どんなにベテランの先生であっても、疲れや機嫌で思考が変わります。100点の先生なんていない。患者の思いを全てくみ取れる、なんて先生もいない。先生は神様仏様ではないので、任せっきりではダメです。

ジストニアの場合、症状を一番よく知っているのは自分です。自分の希望を先生に伝え、間違えていたら修正してもらう、のような構えがいいです。先生に過剰に任せていては治りません。

内科治療は対処療法となりますが、治療を繰り返しているうちに脳がジストニアを起こすのを忘れ、症状が出なくなる患者は多くいます。

 

先生に分かりやすく情報提供し、自身も納得する治療をしてもらう。その為には、首の各筋肉を把握するのがベストです。

 

当時私が内科治療でかかりつけだった病院は東京女子医大、後に東京クリニック。症状は回旋と前屈。2003年から2016年まで、年に4回のペースで、合計50回程度の内科治療を繰り返してきました。そこから得た経験と先生の話を元に説明します。皆さんご自身で、首の悪さしている筋肉はどこかを把握する際の参考にしてください。

 

 

 

2.首の筋肉の基本

 

首は、前2本と後ろ2本の筋肉。この4本でバランスをとっています。

前2本は左右の胸鎖乳突筋。アゴの付け根辺りから肺へ向かって走っています。後ろ2本は左右の頭板状筋。耳の斜め後ろ下ぐらいにあって、背中へ向かって走っています。

前の2本に力が入れば首は前へ、後ろの2本に力が入れば首は後ろへ傾きます。右へ向けるには前の左側で引っ張りながら後ろの右でも引っ張ります。前の右で引っ張って後ろの左でも引っ張れば、首は左へ向きます。左右に傾けるなら左2本か右2本で引っ張ります。

ガイコツの模型に筋肉の代わりにヒモを4本つけて、引っ張って首を動かすのをイメージすると分かりやすいです。

 

 

 

3.首の筋肉と治療の説明

 

以下に説明する投与量は、ボトックスの単位で説明しています。

 

3.1.胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)

部位、働きは【首の筋肉の基本】を参考にしてください。

アゴの横下辺りで胸骨へ向かうのと鎖骨へ向かうのに別れます。これが胸鎖乳突筋の胸骨枝と鎖骨枝です。ボトックスを上、中、下と3箇所打った場合、下を胸骨枝へ打つか鎖骨枝へ打つかで効果が変わります。胸鎖乳突筋全体が張っている場合には、上、中、胸骨枝、鎖骨枝で、片側に4箇所打つでしょう。用いるボトックスは、最大でも片側合計60単位程度。両側へ打つ場合には合計の120単位よりも少ない量にするかもしれません。

飲食時には、がっつかず、気をつけて少しずつ飲み込めば、嚥下障害にはなりません。しっかり噛み砕いて、一回一回を確実に飲み込めば大丈夫です。

(ここでは詳しく説明しませんが、内科治療後の嚥下障害と外科治療後の嚥下障害は、タイプが全くの別物と感じます。)

 

3.2.頭板状筋(とうばんじょうきん)

部位、働きは【首の筋肉の基本】を参考にしてください。かなり強い筋肉です。私の場合には片側で100単位を超えて打っても、病状によってはまだ足りなく感じる時もありました。ひし形に4箇所に分けて打つのが効くそうです。

ここはいくらボトックスを打っても大した副作用はありません。頭を持ち上げづらくなるので、遊んでいて激しく前に転んだ時に、顔を打って大怪我したことは何度かありましたが(^_^;)

 

3.3.僧帽筋(そうぼうきん)

ポンと手を肩にのせただけでさわることが出来る広い筋肉です。先生は「猿でも打てる僧帽筋」とか言いながら治療しますが、そのぐらい簡単な位置にある肩の筋肉です。鎖骨の斜め後ろの方と肩の真ん中辺りとでは、張りが違う時もあります。症状の程度により2~4箇所に分けて注射してもらいました。多めに打つと、肩が下がってしまいます。

 

3.4.肩甲挙筋(けんこうきょきん)

背中の首の根元にある肩こりのツボみたいな筋肉。僧帽筋を親指でグイッと押しのけて、その奥のツルツルした所をめがけて打つ。とのことです。大抵は2箇所に分けて注射してもらいました。

 

3.5.頭半棘筋(とうはんきょきん)

首の後ろにあります。肩甲挙筋よりも背中側で上の方の浅い位置です。張っていることはあっても回旋にはほとんど影響していません。張りが少なくても、回旋とのバランスの関係で打ったりもします。

この筋肉は首を持ち上げる時にも動いています。後屈の場合には、ここへの治療が必須な患者もいるでしょう。

ここには頸静脈もあるそうで、実際に治療箇所からツーと血が出たこともありましたが、数分で止血できたので問題ありません。

2箇所に分けて注射します。

 

3.6.頸半棘筋(けいはんきょきん)

頭半棘筋と下頭斜筋の間ぐらいの高さから打つ、深い位置にある筋肉です。アゴが前に出るような患者の場合に治療すると効果があるように、自身の副作用から感じました。

 

3.7.広頸筋(こうけいきん)

首の前側です。鏡に向かって「い~( ̄皿 ̄)」と歯を食い縛ると、首の根元にスジになって末広がりに見える筋肉。幕みたいな薄い筋肉だそうで、ここが張っていても5単位程度の量を4箇所へ打てば効果があります。

 

3.8.下頭斜筋(かとうしゃきん)

首の後ろ、と言うよりも、頭の後ろの奥の位置にある小さな筋肉。最大でも60単位のボトックスしか用いることができません。ここへの筋注には、針筋電図などが必須と思います。打つのは1箇所です。

回旋のツボです。頭板状筋へいくら打っても回旋が治らないと言う人は、ここが原因の可能性もあります。

 

3.9.上頭斜筋(じょうとうしゃきん)

下頭斜筋の上にあります。ここは治療してもらったことは無いのですが、ここも針筋電図などが必須と思う位置です。

後屈のツボです。頭板状筋へいくら打っても後屈が治らないと言う人は、ここが原因の可能性もあります。

 

3.10.僧帽筋前縁(そうぼうきんぜんえん)

Googleの画像検索では見つけづらいですが、耳の下の方の首の根元にある筋肉です。

胸鎖乳突筋と似たような働きをするそうですが、異常が無ければちょっと首を回したぐらいでは動いていません。おもいっきり首を回すと動きます。

しかし常にここが張っている場合は、4箇所に分けてボトックスを打つと回旋が楽になります。前屈に影響している人もいるのかもしれません。

 

3.11.斜角筋(しゃかくきん)

首を横に傾ける筋肉です。首の横。耳の下の方で僧帽筋前縁よりも上にあります。わりと奥にある感じがします。打つのは1箇所です。

この辺りには、手を動かす神経が通っていて(「腕神経叢」だそうです)、注射する位置によっては、感電した時のようなビリビリと凄いしびれを手に感じます。注射針を刺し直してもらえば、しびれはすぐに消えるので大丈夫です。

 

3.12.後頭直筋(こうとうちょっきん)

ここは針筋電図で調べはしていただきましたが、いつも異常が無く、実際に筋注してもらったことがないので詳しくは語れません。が、回旋を治す目的で調べてもらったのでその作用もする筋肉のはずです。

 

 

3.13.その他

私は痙性斜頸の症状が強く出ているのに、針筋電図でどの筋肉を調べても異常が見つからなくなってしまいました。

外科医にお伺いしたところ、頸椎の骨と骨の間にはペン先程度の細~い筋肉がびっしりとくっついていて、そこへモグラたたきしていると、模型も使って詳しく教わりました。実際にその先生の手術で治ったので、そういうことだったのですね。

先のYouTubeの動画の頃から、その現象は始まっていたようです。回旋の症状なのに胸鎖乳突筋などの波形がこれほどまでに静かだなんて、物理的にあり得ないことです。(動画の中で先生が「SCMコンマCT、コンマST」と言いながら波形を記録しているのが、胸鎖乳突筋の鎖骨枝と胸骨枝です。)

 

その頸椎周りの筋肉の不随意運動を、内科治療でやっつける話は聞きません。素人的には、そのあたりに筋注すればボツリヌス毒素の筋膜の浸透効果でうまくいきそうな気がしますが、そうはいかないのでしょうね。。。

 

 

 

4.筋肉の抗体について

 

痙性斜頸の患者から、

「前回の治療よりも、今回の治療のほうが効きが悪い。先生から、筋肉が抗体してしまったのかもしれないと言われた。」

との声をよく聞きますが、心配することはありません。3ヶ月おきに最大量のボツリヌス毒素を用いた治療を何十回と繰り返しても、筋肉が毒素に対して抗体しないのは私が経験済みだからです。

もしボツリヌス療法の効きが落ちたのなら、それはジストニアがモグラたたきしてしまっただけでしょう。

抗体しているのなら、針筋電図で確認しても筋緊張は治まっていません。 逆に、針筋電図で調べた結果は異常がないのに症状があるのなら、狙っている位置とは別の筋肉が悪さしているだけなのです。

 

日本国内の治療で、ボツリヌス毒素に筋肉が後退したという事実を私は知らないし、ルールを守った治療ならそんなことあるはずはありませんが、万が一そうしたことが起きた場合でも、以前はA型のボトックスとB型のナーブロックがあったので、毒素の型を変えてボツリヌス療法を継続することができました。しかし現在、痙性斜頸の治療に認可されているボツリヌス毒素は、A型毒素のボトックスのみです。

2011年から痙性斜頸用のB型ボツリヌス毒素として販売されていたナーブロックは、2021年11月末で事実上の販売中止となりました。

※参考文書:「ナーブロック®筋注 2500 単位」の供給に関するお詫びとお知らせ

 

ナーブロックはボトックスよりも安く、我々の経済的負担を助けてくれたのですが、まことに残念です。

メーカーからは公表されていないナーブロックの販売中止の経緯は、2022年5月発行の会報(DFA通信35号)内でお伝えしています。

 

なので、もし仮に抗体したとしても、抗体が引くまでの期間はMABとかのA型ボツリヌス毒素ではない神経ブロックで治療してもらえば済むのです。

 

 

 

5.最後に

 

通常だと、ボツリヌス治療で最も多く毒素を使うのは、首の筋肉の基本となる胸鎖乳突筋と頭板状筋です。まずはそこへどう打つかを考えてから、残る分をどこへ使うか先生と相談します。基本の筋肉の他は、多く使ったとしても普通なら1筋あたり50単位ぐらいです。

 

内科治療で、100点まで治そうとしてはいけません。70点ぐらいまでで合格とするのが良いです。それは、私は100点を追求したあまりに、逃げ場を失ったジストニアが頸椎周りの筋肉へモグラたたきし、内科治療ではにっちもさっちも行かず手術をするはめになったからです。内科治療では、ジストニアの逃げ場を残しておくのが無難です。

結局私は手術して頂き、その結果は100点満点、費用もボツリヌス療法のたったの数回分と高くなかったし、いうことなし なのですが、脳の手術は誰もが成功するとは限らないので、脳をいじらずに済めばそのほうが良いかと思うのです。

 

なので痙性斜頸の治療は、まずは神経内科、そこで治らなかったら脳外科、の順にすすめています。外科治療だと安いし、手術の翌日にはキレイさっぱり治っちゃいましたが(^^;

 

話は戻って、70点ぐらいでほっとくと、忘れた頃に痙性斜頸は治るようです。そうした人は、私の周りに多くいます。

皆さんも70点ぐらいを目指して、先生任せにはせずに自身でも打ち方を考えて、よく相談しながら治療しましょう。それで治療の効果を高めることが出来ます。(^o^)

(当時の私は95点ぐらいの治療の効果があったが、それがヤバかった、笑)

 

これは一患者の過去の治療経験に基づく話です。筋注の投与量にはある程度の個人差があるでしょう。また、先のYouTube動画の頃には頸半棘筋、後頭直筋を調べられていませんが、2016年には診るのが普通とされていました。今ではもっと多くの筋肉が見つかっているかもしれません。

このページについても、ジストニアの専門医により監修された内容となっておりますのでご安心ください。

 

 

 

 

 

 

おまけ(外科治療編)

 

皆さんはドキュメンタリー映画「ジストニア」を観たことはありますか?

http://movie-dystonia.her.jp/

映画の主人公は、症状の進んだ痙性斜頸患者です。内科治療では、どこにボツリヌス毒素を筋注すればいいのか、先生も困ったでしょう。(実際に会うと、映像から見えるほど単純ではないのです。頭板状筋と斜角筋に打ったぐらいでは治らないと思います。)

 

作品の予告編があります。

1分40秒からの電極がターゲットに命中するシーンは見事ですよね。実際には脳の中は2Dではなく3Dです。なぜその位置を狙えば治るのか、患者からすると全く不思議です。

 

もう一つの予告編では、様々な症状ごとに苦しむ(苦しんでいた) 患者が映っています。

1分7秒から映っている痙性斜頸の患者は私です。これを見たら、「ちっとも内科治療で治ってねーじゃん」と思うでしょう。この撮影の頃ぐらいから既に、3.13.その他で書いたモグラたたきが始まっていました。この後さらに症状が悪化し、私は主人公と同じく、東京女子医大 脳神経外科で手術して頂きました。しかし術式は映画のそれとは異なり、破壊術(凝固術)でした。

東京女子医大ではDBSの手術が行われずに凝固術になっていると、先生から2016年には既に伺っていました。

(ちなみに、私は左右の淡蒼球内接という位置を両側とも熱凝固してもらい、完璧なまでにジストニアは治りましたが、今では両側の破壊を必要とする場合、一方は別の位置を破壊するのだと2020年12月に執刀医から直接お伺いしました。そのほうが安全性が高く、手術の副作用も、抑えられるのだそうです。どんどん医療は進められていますね。詳しくは医師に直接お伺いするか、2021年6月に発行のDFA通信33号をご覧くださいませ。)

 

平先生は、こう話しています。

https://medicalnote.jp/contents/160411-033-MU

機器がなく電池交換の再手術もいらない凝固術、経済的負担の低い凝固術、患者に寄り添った治療の凝固術、と伝えています。先端医療の凝固術、とも分かります。

ジストニアの外科治療では日本でトップ、世界でもそのレベル、とも言える先生がこのように患者を思ってくれるのは、ものすごく嬉しいですよね。

治療選択の自由とは、https://amdd.jp/technology/voice/patient_group/784/で書きました。さらに治療する側への願いとしては、多くの病院で破壊の施術が可能になってもらいたいと思います。それと同時に、そこでも書いたように、凝固術の手術で使う医療器具を日本で再販してほしいです。

ケースによると思いますが、凝固術で、遺伝子性ジストニアでも全身性でも治ると、平先生から直接話を伺いました。そのことは、先にリンクした平先生の記事の最後にも書かれています。

DBS治療は、保険適用前の総医療費は500万円以上だそうですが、病院の取り分は少なく、医療器メーカーに多くのお金が流れるそうです。病院の儲けは知りませんが、とにかく、

企業が儲からなくなるから凝固術の医療器具は売らない。DBSで治せ。利益優先。しわ寄せは患者へ。では、たまりません。

せっかくジストニアが治る医療技術があるのに、それが廃れては困ります。複数の有名医からは、なんとかせねばと各方面で調整を図っている旨を伺っています。

 

みなさんは、どう考えますか?